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地形学の視線で見たこと,感じたこと


by kumakuma1103

河岸段丘、海岸段丘、洪積台地の用語について

 高校の地理では、河岸段丘・海岸段丘・洪積台地と区分して小地形を教えている。しかし地形学の研究では、河岸段丘・海岸段丘のことをそれぞれ河成段丘・海成段丘とし、洪積台地の用語は使われていない。河岸段丘・海岸段丘と河成段丘・海成段丘は一文字違うだけではない。例えば、海面上昇に伴い谷の奥にまで海が入り、波の影響で谷沿いに段丘が作られた場合を考えてみる。場所としては河岸であるが、成因は海成であり、正確に言えば河岸にある海成段丘となる。

地形学には、段丘の形成過程を明らかにする分野(地形発達)があり、段丘が存在する場所より段丘の成因に着目することが多く、河成段丘・海成段丘という用語が一般的となった。学校現場でも河成段丘・海成段丘を使えば、時代区分として古い言葉である「洪積」台地を使う必要はない(現在は「洪積世」にあたるのは「更新世」)。しかし河成・海成となると地層に注目しているので、地理というより地学の側面が強い用語である。下総台地などの広い台地は河岸や海岸としても実態にそぐわないので、学校現場では「洪積台地」を使わざるを得ないのであろう。

また「洪積台地」とすると、地層の複雑な変化を無視できる利点がある。下総台地では、河成層にあたる三角州や氾濫原の地層から、浅い海の海成層まで地域によって構成層が異なる。正確を期すなら、一続きの台地でも、個別にここは河成段丘・海成段丘とわける必要性がでてくるが、地理の学習では、台地の地形における土地利用や人々の生活が重要であるので、地層の違いによる区分は不要である。となると、河岸段丘・海岸段丘・洪積台地の3区分にも合理的な側面もある。

 はじめは、河岸段丘、海岸段丘、洪積台地の3区分ではなく、河成段丘・海成段丘の2区分でよくないかと思っていたが、河岸段丘、海岸段丘、洪積台地の3区分は必要なのかと思い直している。一方で、洪積という古びた言葉が残っているのも気にはなる。知識も時代と共に新しくすべきとも思うからである。

単純に「段丘」という言葉だけにして、段丘は、川や海の影響を受けなくなった高台とするのも一つの方策か。そこで、谷底平野や扇状地が段丘化した事例(いわゆる河岸段丘)、海岸地形が段丘化した事例(いわゆる海岸段丘)、デルタ〜浅い海が段丘化した事例(いわゆる洪積台地)とするとよいかもしれない。


by kumakuma1103 | 2020-05-03 07:21 | 雑記